短編小説『最愛の慈しみ ―― 夏の満月の浜辺での聖女ルリナさまの病気治しとお話会』

短編小説

文字数は約6000字で推定読了時間は約12分の小説になります。

以下のお話(こちらは約750字です)と共通するテーマを扱っている部分もあるので、よろしければ一緒にお読みください。

掌編小説『老師さまの春風(しゅんぷう)の教え』
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『最愛の慈しみ ―― 夏の満月の浜辺での聖女ルリナさまの病気治しとお話会』  

 ある夏場の黄昏時の浜辺に数十人の病人が訪れ、聖女ルリナさまは治癒魔術による病気治しをされました。病人の病は不治の皮膚病や失明、躁病など重いものから、流行りの風邪や軽い火傷など様々でありました。ルリナさまはどの病人の病も治そうと試みられが、ある人たちは治り、しかし、ある人たちは治りませんでした。ルリナさまはどの病人にも一人一人優しい言葉をかけられましたが、治らなかった病人には特に念入りに優しい言葉をかけられました。

 治った人々だけではなく治らなかった人々までお礼としてお金を渡そうとしましたが、ルリナさまは

「これは私ではなく他の困っている方々に分けてあげてくださいね。」

と言って丁重にすべてのお礼のお金をお断りしました。

「しかし、タダ働きというわけにはいかないでしょう。やはり、受け取ってください。」

そう言いどうしても受け取って欲しいとお金を渡そうとした人々もいましたが、

「私はいくつかの前世でもしておりました機織りがとても得意で、それを生業として生きておりますから。」

とルリナさまはやはりキッパリとお断りしました。

「では、これはプレゼントですから。」

とお金ではない物を渡そうとした人々もいましたが、

「申し訳ありませんが、お金であれ物であれいただくわけにはまいりません。金品をいただけば、霊に力を取り上げられますから。」

とルリナさまはやはり断固として金品を受け取ることを断られました。

 訪れた病人の病気治しをされた後の頃には、夕日は西の山に沈み満月が東の海から昇ってまいりました。ルリナさまはお話を聞こうと集まった人々に、

「今日は私からお先に何かを語るのではなく、どなたでも私に質問なさってください。私が答えられる限り心を尽くしてお答えしましょう。」

とおっしゃいました。

 しばらく沈黙が続いた後、ある青年が遠慮気味に

「恐れ入りますが、ルリナさま、私からお聞きしてもよろしいでしょうか。」

と言うと、ルリナさまは青年の目を見て優しく微笑まれ、

「はい、ぜひどうぞ。」

とおっしゃったので、青年は

「ルリナさまは病気治しをされますが、ルリナさまは霊眼により病気治しをしても治る人と治らない人が病気治しをするよりも前にわかると以前おっしゃっていました。であればなぜ霊眼によって治らないとわかっている病人の病も治そうと試みられるのでしょうか?

 私が数年前にお会いした別の聖女さまは病気治しを試みても途中でもう病人の病が治らないとなると『私はあなたから宿題を奪うわけにはいきません。あなたはその病気から学ぶことがあります。』と声をかけていました。また、その聖女さまは『苦しみとは神から与えられた祝福と恩寵の贈り物なのです。有難きものとして受け取りなさい。神は乗り越えられない試練はお与えになりません。』ともよくおっしゃっていました。」

とルリナさまに伺いました。

「あなたは生きる上で1番大切なことは何だと教えられていますか?」

ルリナさまが尋ねられると、青年は

「他者を慈しむことだと教えられています。また、心を尽くし力を尽くして他者を慈しむことによって自らの中に強い力と勇気が湧いてきてその人自身も救われるということをルリナさまご自身がおっしゃっていたことを聞いたことがあります。」

と答えました。

「その通りです。」

ルリナさまは満足そうな微笑みを浮かべられ言葉を続けられました。

「まず誤解がなき様に申し上げておきたいのが、例え病気が直ぐに癒えなくとも治癒させようと試みることは決して無駄なことではありません。治癒用に創られた天使的な想念がその方に付き、時がきたときにその方のために働くからです。ですのでそのような実利的な意味合いもありますが、一方で何より私は最愛の慈しみのためにどのような方の病であれどうしても治って欲しいという強き思いで治そうと試みるのです。」

ルリナさまはそう答えられましたが、青年は少し戸惑いながら

「実利的な意味合いで治らなくても治そうと試みられることは理解いたしました。しかし、恐れながらルリナさま、”最愛の慈しみ”のために治そうと試みられるということがよくわかりません。もう少し詳しく教えてくださいませんか?」

とさらに伺いました。

「失礼いたしました。確かに私の言葉足らずですね。それでは例え話をいたしましょうか。」

ルリナさまはそうおっしゃり、自ら作られた例え話を話されました。ルリナさまは自らお話を作ることがお好きなのです。

「ある村で大洪水が起こり、数多くの人が亡くなり、傷つきました。もちろん、多くのお家が流され、壊れました。とてもその村と村人たちだけでは、村を再興することなどできません。

 その大洪水のことを知った都の慈善団は市場で大洪水に遭った村の再興のための義援金の寄付を呼びかけておりました。市場の通りをゆくある人たちは慈善団の簿記箱に寄付をし、ある人たちは少し立ち止まりましたが目を逸らし通り過ぎ、ある人たちは関心を払うことなく通り過ぎました。

 その中の3人の人のお話をしましょう。

 1人目の人は『苦しみとは人を成長させるための試練であり、この世は成長のための学び舎なのだ。』という教えを受けていました。ですので、慈善団の呼びかけを見て、大洪水に遭った人が少し可哀想だと思いましたが、『大洪水に遭った人はその苦しみによって学んでいるのだ。』と自分に言い聞かせ、これから1週間分の食料を買うために市場での買い物を続けにゆきました。

 2人目の人は『苦しみとは前世を含む過去の罪に対する罰であり、悪いことをすれば今生や来世で悪いことが起き、良いことをすれば来世を含む未来において良いことが起きる。』という教えを受けていました。ですので、慈善団の呼びかけを見て、 『寄付をすれば、前世を含む過去の自分の罪を帳消しにできたり、来世を含む未来に良いことが起きるかもしれない。』と考え、これから1週間分の食料を買うために持っていたお金の中で、2日分の食料代を慈善団の募金箱に寄付をしました。

 3人目の人は何も宗教の教えを受けていない人でした。しかし、彼には善き親友がいました。その親友は10歳くらいのときに5歳の妹が難病にかかり家族全員でお祈りを捧げましたが、虚しくも妹はもがき苦しみながら亡くなりました。『神さまは苦しんでいる人々を救ってはくれないんだ。』と絶望したその親友は、『神さまが苦しむ人々を救ってくれないのなら、僕が救ってあげなければならない。』と考え、一生懸命に勉学に励み、今は進んだ医学を学ぶために隣国に留学をしているところです。

 慈善団の呼びかけを見て、その3人目の人は神さまが救ってくれない人を救うために隣国に留学している親友のことを思い出し、『神さまが救ってくれない人々を救うために僕はお金を捧げよう。お金がすべてではないなどと宗教は言うがお金で解決できることならばお金をあげて解決すればいいではないか。』と考え、これから1週間分の食料を買うために持っていたお金の中で、2日分の食料代を慈善団の募金箱に寄付をしました。 」

 この例え話を終えられたルリナさまは

「この3人の中で善きことをしたのは誰でしょう?」

と青年に問われました。

「2人目の人と3人目の人はどちらも2日分の食料代を寄付したというわけですから、2人目の人と3人目の人のどちらもだと思います。」

青年がそう答えると、ルリナさまは続けて

「それでは3人の中で1番幸いな人は誰でしょうか?」

と青年に問われました。

「恐れによってではなく寄付をした3人目の人だと思います。」

青年が答えるとルリナさまは教えを続けられました。

「見返りを求めても、何かに縋っても、誰かのために動くその手は尊いものです。それもまた、誰かを助ける確かな力なのです。ただ、もし皆さんが、自分自身の心をもっと自由で、もっと幸せな場所に置いてあげたいと願うなら見返りさえ忘れてしまうような、一途な思いに触れてみるのも、また善きことなのですよ。」

そう例え話に対する付言をなさったルリアさまはさらにお話を続けられました。

「自分が孤独であるとか自分は見捨てられているなどと皆さん決して思ってはなりません。そのように思うとき悲しいことに皆さんは自分自身を虐待していることになるのですよ。どうかお願いします。自分をいじめないでください。」

ルリナさまのお顔は少しだけ険しくなりましたが、再びお顔を緩められました。

「神さまや天使たちが皆さんを愛していることを信じなさいとは私からはいいません。しかし、今この瞬間も皆さんの幸せは世界に少なからずはいる愛情深い人々に祈られているのです。ほらほら、ここに私もいますよ。ここにいますよ。皆さん、大丈夫ですよ。大丈夫ですよ。ご病気が治らなくても、私は今直ぐ本当に治って欲しいのですよ。どのような苦しみがあっても、今直ぐ本当に幸せになって欲しいのですよ。」

そうせがむようにおっしゃいましたが、一方でルリナさまの黒曜石のようなお目々は満月の光で哀しくも優しく輝いてまいりました。

「私は皆さんの苦しみが試練や罰を越えて今直ぐにでも取り除かれ、完璧に幸せになって欲しいと強く祈っています。試練や罰を必要とされずに慈しみから慈しみを学べることを強く願っています。私に全能の力があるのであれば、すべての試練も罰も叩き割り、無敵の愛情ですべてすべてを抱き締めます。それを私は”最愛の慈しみ”と呼ぶのです。

 嘘であるかと思われるかもしれません。であれば、皆さん自身の心の中に最愛の慈しみの祈りを起こせば、どこかに探さなくてもほら皆さん自身の心という1番近くに最愛の慈しみがあるということが明らかになるのです。

 例え今直ぐに完璧に救われなくても、『今直ぐにでも完璧に救ってあげたい』と強く願うことはできます。想像を絶するような本当の苦しみの中にいる人の願いとは『いつかではなくて今直ぐに、少しではなくてすべての苦しみの取り去って欲しい』というものです。例えそれが決して叶わぬ儚き願いだとしても、『今直ぐにでも完璧に救ってあげたい』と強く願ってあげてください。”都合の良い苦しみの終焉”を願ってあげてください。そしてそのように願うことで力と勇気が出てきて皆さん自身も救われてゆくのですよ。 

 厳しい激しい修行のようなことはいりません。大事なことは一途に他者を大切に愛おしく思う心です。人々の想念は善いものも悪いものもどちらでもないようなものも私には視えております。ですので、祈りは決して虚しい気慰めなどではありません。

 例えば、夜、床に横になって目を閉じてこれから眠りにつこうとするとき、このようなことをやってみてはいかがでしょうか。

 まずは白色の光を聖霊の恩寵の光として深く吸い込み、吐く息が柔らかな白に、カナリアイエロー、ベビーピンク、そしてスカイブルー、その優しい三色が混じり合った光となるように思い描き呼吸を繰り返してください。

 そうして心の準備ができましたら、自分の知っている人々の中で何かしら困難を抱えている人々、さらに自分のことを嫌っているかも知れない人々、自分が嫌いという思いを少しでも相手に持ってしまっている人々を順番に思い起こしてください。そして、吐く息の柔らかな白にカナリアイエロー、ベビーピンク、スカイブルーが混じり合った光で相手を照らしてゆくように思い描いてください。包みこんであげるように思い描いてください。

 それからこの星の地図や模型を思い起こしてみてください。そして、そこにあるすべての国々とそこにいるすべての人々と生きとし生けるものすべてを同じように吐く息の光で照らしてあげてください。包んであげてください。

 そしてまたゆとりがあるようでしたら、お星さまたちがきらきら光る夜空を思い起こしてみてください。そして満天の星空に、宇宙に、存在する限り存在するあらゆる宇宙に幸せが溢れかえるように願って吐く息の光で照らしてあげてください。満たし尽くしてあげてください。

 光の呼吸の祈りが終わりましたら、私の場合は毎晩『世界が至福になりますように』と頭の中で念じながら眠りの世界の人々を助けにゆくために羽ばたいてゆきます。

 このような光の呼吸の祈りを眠りに落ちる前の少しの時間でやってみてはいかがでしょうか。眠りにつくとき以外にも例えば街中を歩いているときに道行く人々の幸せを祈るために行っても良いでしょうし、他にも少し一息つきたいときにタバコのように光の呼吸の祈りをしてみても良いかもしれません。

 そして何より大事なこととして皆さんが日々生きる中で考えること語ること行うことのすべてをできる限り慈しみに満ちたものにしていってくださるのならば、これほど私にとって嬉しいことはありません。

 だけれどあまりに追い詰めて慈しみにムキになってはなりませんよ。慈しみは競争ではありません。休みながら眠りながら焦ることなく歩んでゆくのですよ。ご自愛するのですよ。」

ルリナさまが結論を出されると、青年は納得したようなので、

「他にご質問がある方はいらっしゃいませんか?」

とルリナさまは続けられました。

「ルリナさまぁ、ルリナさまはずっとずっと昔に生きたときの思い出、『ぜんせ』っていうんだっけぇ?覚えているんだよねぇ。そのときの言葉も覚えてるのぉ?」

幼い少年が問うとルリナさまは

「はい、そうですわ。4000年前の思い出、前世まで覚えておりますわよ。言葉も覚えておりますよ。前世の言葉でのねんね歌も歌えますよ。」

とおっしゃり、1つ前の前世のねんね歌はこれ、2つ前の前世のねんね歌はこれ、3つ前の前世のねんね歌はこれと次々と聞いたこともない異国の言葉とメロディーのねんね歌を歌われ、またそれぞれの言葉の文字を砂浜に書いて見せてくださいました。そうして、2000年前のねんね歌を歌われたとき

「このねんね歌は実は2000年前のこの国のねんね歌なのですよ。私は2000年前の前世でもこの国に生まれて生きていましたので、そのときのこの国の言葉を覚えています。もうその頃と今ではこの国の言葉は随分変わってしまいましたが、それでもところどころまだ似ている部分もあるのですよ。」

と説明されました。

 するとある老人が

「ルリナさまはそのときこの国でどのようなことをされていたのですか?今と同じように機織りの仕事や病気治しの奉仕をされていたのでしょうか?」

とルリナさまに伺いました。

 ルリナさまは

「いえ、その頃はそうではなくて、、、」

と悲しい顔をされ

「私が2000年前この国にいましたときは、呪詛師をしておりました。人を不幸にしたり殺したりする呪いを生業としていたのです。」

とご自身の秘密を明かされました。

 一同が呆然となって聞いているところに、ルリナさまは

「人々は私を聖女と呼びますが、それは公平ではありません。ですので2000年前のこの国で呪詛師をしていた私の話をいたしましょうか。それから拷問な苦しみを受けた前世の話も、、、。私は昔は人を苦しめれば苦しめるほど強くなったと思っておりました。一方で、人を愛すということがたまらなく怖かったのです。皆さんの中にも、きっと同じように感じたことのある方がいるでしょう。

 私は皆さんに最愛の慈しみを説き続けますが、そう言いながらも私の今までは生は苦しみによる成長物語でした。しかし、しかし、それでも私は誰にも物語のために苦しんで欲しくはないのです。苦しみ悲しみ痛む主人公になって欲しくないのです。それが例え夜空の望月を掴まんとするような弱き儚き夢だとしても、幾星霜もの永劫回帰の永遠の命の流転を費やしてでも、私は希求し続けるのです。」

と前世のお話や思いを自ずから始められました。集まっているもの老若男女皆、興味津々でルリナさまのお話に耳を傾け、幼子でさえあくびをすることさえありません。

 聖女さまは悲しい過去の話を始められましたがわけですが、一方で東の海から徐々に昇る満月の光は澄み渡り、海に映る水月も麗しく輝いてきております。ルリナさまのお話会はまだまだ序盤の方であります。


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